地域での多職種連携に求められる臨床薬理を基盤としたチーム医療について
学会
2020年12月3日
大会名 | 第41回日本臨床薬理学会学術総会 |
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会期 | 2020年12月3日~12月5日 |
会場 | 福岡国際会議場 |
演題名 | 地域での多職種連携に求められる臨床薬理を基盤としたチーム医療について |
発表形式 | シンポジウム |
座長 | 木戸 宏幸(Chemist and Pharmacist) 瀬尾 量(崇城大学薬学部) |
企画者 | 木戸 宏幸(Chemist and Pharmacist) 吉山 友二(北里大学薬学部保険薬局学) |
概要 | 世界に先駆けて超高齢社会を迎えたわが国において、医療は従来型の「病院完結型医療」から「地域完結型医療」へと移行している。外来から入院、在宅へ必要な医療を切れ目なく提供できる体制を地域全体で整備する必要があるが、多くの医療職が関わるため、治療の基本方針の明確化、円滑なコミュニケーション、患者情報の共有など、多くの課題を抱えている。また、患者一人一人の病状にも違いがあるため、身体的苦痛と同時に心理的、社会的、精神的な問題を抱えるケースが少なくない。例えば、病気の再発に対する不安、薬の副作用に対する不安、退院後の食生活に対する不安など、抱える問題は様々である。 多職種連携とは、言い換えれば異なる専門性を持った多くの職種が関わることである。そこで求められるのは、共通の目的意識を持ち、各専門職がそれぞれの能力を発揮し、他者の持つ機能と調整しながら連携し、患者に総合的に効率よくきめ細かい良質な医療を受けてもらうことである。そのためには外来から入院、在宅とステージが変わっても、科学的根拠に基づいた医療を実践し、臨床薬理を基盤としたチーム医療を病院の中だけでなく、住み慣れた地域に戻った後も継続して提供していく必要がある。 本シンポジウムでは多職種連携の現状を確認し、その中で今後の方向性について議論を深めたい。 |
演題名 | 多職種連携を中心とした法人全体による地域包括ケアシステムへの関わり |
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演者名 | 田中 洋輔(医療法人相生会金隈病院) |
概要 | 2025年を目途に厚生労働省は、高齢者の方々が「重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができる」という目標を掲げ、地域における医療と介護の各機関が連携して、包括的かつ継続的な治療やケアを患者家族に提供出来るような「地域包括ケアシステム」と呼ばれるサービス提供体制の構築を推進している。地域包括ケアシステムでは、地元自治体が中心となって地域の医療機関等と連携しながら、在宅医療・介護の連携構築とそれに関連した効率的なサービス提供を行うことを目指している。また厚生労働省は、医療の質や安全性の向上に伴って生じる高度化かつ複雑化する業務の増大に対応するために、多種多様な専門性を持ったスタッフが目的と情報を共有し、各々が業務を分担することでお互いに協力し合う「チーム医療」も推進している。これをいわゆる「多職種連携」と呼び、この「多職種連携によるチーム医療」こそが、地域包括化ケアシステムを実現しかつ充実したものとするために必要となっている。そのような背景のもと当法人は、福岡市内に3病院、福岡県宮若市に1病院、熊本県に1病院を有し常に連携をとっているが、その中でも福岡市内3病院は距離的に近く医療圏も重複していることから、より細やかな繋がりを持つために「提携リーダー会議」なるものを発足させ、病院や在宅関連のリーダー達を中心として定期的に情報交換並びに結びつきを強めている。実際の地域包括ケアシステムの課題の一つに、病院関係者と在宅関連者間での地域包括ケアシステムに対する意識の差というものが挙げられるが、これを打破するためにもこの会議の取り組みは大切で、病院と在宅を結びつける重要な役割を果たしている。一般的に医療の中心は診療・看護・介護・投薬が主となるが、地域包括ケアシステムにおいてもその構図は変わらず、特に在宅での投薬管理はこの新型コロナウイルス流行下でも大変重要となっている。具体的に言えば、診療はオンライン診療でも可能な限りは行えるものの、現場の看護・介護や投薬については繊細さが求められ、特に投薬については薬剤に関する知識と管理能力および患者家族との関わり合いが重要となってくる。今回我々は、地域包括ケアシステムの中で当法人がどのように薬剤師・薬局と連携をとり、またその一員として如何にチーム医療による多職種連携を実践しているかを報告する。 |
演題名 | 多職種連携によるポリファーマシー~当院の取り組み開始の軌跡~ |
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演者名 | 吉富 宗重(社会保険田川病院) |
概要 | 当院が位置する福岡県筑豊地方の田川地域は、人口11万人余りで高齢者率は38%と全国平均より高齢化が高い地域である。その中で当院は26の診療科を有する総合病院として急性期医療を中心に回復期、慢性期、在宅へと至る医療を担っている。また、当院では65歳以上の入院患者率66.6%、平均入院時持参薬数は8.9剤で、社会問題となっている高齢者の医薬品多剤服用=ポリファーマシーについては、解消すべく重要な課題となっていた。当院ではポリファーマシー問題の解決に向けて、2019年10月より「ポリファーマシー対策プロジェクト(以下、PPP)」が発足され、病院目標のひとつに「ポリファーマシー対策の推進」が挙げられた。PPPメンバーは、医師・薬剤師のみでなく、看護師・管理栄養師・リハビリセラピスト・MSW、医事課・経営企画課担当者など多職種で構成され、当院のポリファーマシー状態の入院患者への包括的な介入とポリファーマシーについての啓発活動を行う事となった。PPPは、初めに医師・薬剤師対象にポリファーマシーについての認知度や理解度のアンケートを実施した。結果、認知度に両職種の差はないものの、医師から「ポリファーマシー-に関する薬剤師からの情報が欲しい」といった希望が高かったのに対し、薬剤師は「必要性は理解できるがマンパワー不足で対応が難しい」などといったポリファーマシーに対する意向の相違があることがわかった。そこでPPPでは、対象者の選出について、医師や薬剤師以外からの多職種や院内の様々な専門サポートチームと協働しながら減薬の提案を行っていく事とした。また、減薬提案後のアドヒアランス計画の決定支援、介入後の評価を目的とした事例検討会の開催を週1回30分とルーティン化し、意見交換や情報共有が行える環境を整えた。ツールとしては、煩雑なカルテ記載に代わるテンプレートを活用し、医師・薬剤師の減薬情報入力を医事課に連動させ薬剤総合評価調整加算に結びつける機能を作成した。また、ポリファーマシーについて職員や患者・家族の理解を深める支援として院内待合室のモニターや職員用の広報サイネージで厚労省の啓発資料を情報発信した。少しずつだが、PPPの取り組みにより減薬提案の症例が増え、ポリファーマシー状況から減薬したことで薬物有害事象を回避した事例や算定取得に繋がった事例などポリファーマシー解消に向けて機能し始めたことを報告する。 |
演題名 | 医薬品適正使用に向けた薬局業務の質の可視化と多職種連携への応用 |
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演者名 | 藤田 健二(シドニー大学薬学部) |
概要 | 【背景】 居宅療養中の高齢患者は、加齢に伴う生理機能の低下および服用薬剤数の増加により、重複投薬、服薬アドヒアランスの低下、薬物間相互作用のリスクが高くなることが知られている。これらのリスクを早期に発見・解決するためには、薬学的見地から処方内容や患者の状態を評価する薬剤師の役割は重要であり、多職種チームの一員として積極的な関与が期待されている。しかしながら、薬剤師による居宅患者への訪問薬物治療管理業務(訪問業務)は多職種連携を円滑にするためのコミュニケーションスキルや薬物治療に関する幅広い知識・スキルを必要とすることから、関与する薬剤師の違いによって患者に提供されるケアの質が異なる。また、薬剤師の役割に関する多職種間での認識の相違により、薬剤師が多職種の中で本来の役割を発揮できておらず、結果として居宅患者の医薬品適正使用が実現できていないことが少なくない。そのため、訪問業務の質を高い水準で保証するための方策を発案することが喫緊の課題となっていた。 【目的】 この課題解決には、業務の質を定量化する指標が必要となる。演者は、医療の質を評価するツールの1つであるQuality Indicator(以下QI)に着目した。QIとは、エビデンスまたは識者内でのコンセンサスが得られているケアが、必要な患者に過不足なく実施されたかどうかを割合(ケアが実際に実施された患者数/本来実施されるべき患者数)で算出し、ケアの質を施設単位で評価するために使用されるツールである。薬局薬剤師自らがQIを用いて訪問業務の質を時系列に把握できる環境が整備されれば、業務の改善に向けたアクションを起こせるようになる。加えて、業務の改善活動は、医師や看護師をはじめとする医療・介護従事者との連携が不可欠であることから、多職種連携の質も向上することが期待される。そこで演者らは、訪問業務の質を網羅的に評価するQIセットの開発および運用上の課題抽出を主な目的として、多段階型の研究を実施した。本シンポジウムでは、多職種連携を考察の軸としてこれらの研究結果を報告する。 |
演題名 | 関係性が重要!地域連携薬局の事例と求められる薬剤師像 |
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演者名 | 黒木 慎也(有限会社佐藤幹薬局) |
概要 | わが国において、地域包括ケアシステムの構築が推進され、行政を中心とした地域ケア会議によって医療・介護・福祉の連携は強化されつつある。しかし、労働人口の減少および高齢者の増加、過疎地域における食事や移動手段の確保など、課題は多い。在宅医療の現場においては、患者や家族の協力が難しく、ケアマネジャーが必要な情報を得ることができていないケースもある。医療はあくまでも生活の一部であり、家族背景や経済的、社会的問題の下では、服薬アドヒアランスを保つことが難しい場合もある。超高齢社会において、薬剤師がチームの中で専門性を発揮できるかが重要となってくる。本学会では、地域の中で、薬剤師がどのように他職種から求められているか、そして臨床薬理学を通じてどのように貢献できるのかの議論を深めたい。 |
演題名 | 保険薬局における管理栄養士の活動報告 |
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演者名 | 出利葉 奏(東ファーマシー株式会社) |
概要 | 現在、我が国の高齢化が進むにつれ、医療費は増加しつつある。平均寿命の延び率に対して健康寿命の延び率が低ければ、QOLは低下し、さらにその傾向は顕著なものとなることが予想される。健康寿命を延ばすために、厚生労働省は健康日本21と呼ばれる国民健康づくり運動を2000年から開始した。この中で、栄養・食生活、身体活動・運動、休養、飲酒、喫煙及び歯・口腔の健康に関する生活習慣及び社会環境の改善に関する目標が設定されたが、管理栄養士は栄養と食の専門家として、健康づくりや生活習慣病の予防、重病化予防に取り組むことが求められる。管理栄養士は、食に関わる企業や保健所などで幅広く活動しているが、医療現場における活動は病院が主たるものであった。しかし、平成27年に厚生労働省が「患者のための薬局ビジョン」を策定し、健康サポート機能の指針を示したことで、保険薬局の場においても、管理栄養士が健康サポートに貢献する役割として活動しつつある。当社では、平成29年4月より薬局に管理栄養士を配属している。薬局における活動として、生活習慣病患者への栄養指導や体組成の測定結果によるアドバイスの実施、ならびに来局された方への広報活動として、毎月の献立リーフレット等の作成を行っている。生活習慣病患者への栄養指導により、血圧や血糖値の改善が見られた例もあった。服薬指導を受ける患者に対して、薬剤師とは異なる視点から、管理栄養士が栄養と食の専門家として支援することで、治療における相乗効果を生みだすことができると考える。また、地域の活動に積極的に参加することで、管理栄養士としての職能をより生かせると考え、地域包括支援センターと連携して介護予防自主活動グループ(地域住民が介護予防のために公民館等で体操やレクリエーションを行っているグループ)に講師として出向き、食事や栄養の講話を行っている。この活動の参加者は、薬や通院の必要がない方も多くいる。そのような方々へ、自ら食生活の改善ができるように支援を行うことは、健康寿命の延伸に繋がるものと考える。このように管理栄養士が薬局で活動することで、薬局が地域住民の健康増進に寄与する拠点となり、多職種連携に関わることができるのではないかと考える。 |