鏡像異性体
2022年8月20日
医薬品における「鏡像異性体」について調べてみました。
と、その前に、鏡像異性体について復習しておきましょう。
鏡像異性体とは、例えば右手と左手のように、回転させるだけではその鏡像に重ね合わせることのできない1対の立体異性体のことです。エナンチオマーまたは対掌体ともいいます。
絶対立体配置→R体とS体
旋光性→右旋性(+)と左旋性(-)またはd体とl体
のように分類されます。
R:rectus(右) S:sinister(左) d:dextro-rotatory(右旋性) l:levo-rotatory(左旋性)
また、上記のd、lとは別に、D/L表記法という分類もあります。ややこしや。
エナンチオマーの等量混合物をラセミ体といいます。
ということで「レボ」や「エス」が名前につく薬を中心に調べてみることにします。
参考:添付文書、インタビューフォーム
オフロキサシンとレボフロキサシン
オフロキサシン(タリビッド)→ラセミ体
レボフロキサシン(クラビット)→S体
クラビットはタリビッドの約2倍の抗菌力を持つそうです。
セチリジンとレボセチリジン
セチリジン(ジルテック)→ラセミ体
レボセチリジン(ザイザル)→R体
レボセチリジンはH1受容体に対する親和性がデキストロセチリジンの30倍だそうです。
ゾピクロンとエスゾピクロン
ゾピクロン(アモバン)→ラセミ体
エスゾピクロン(ルネスタ)→S体
アモバンの7.5mgはルネスタだと2.5mgに相当するそうです。
ラセミ体なのに3.75mgではないのはなぜ?
ルネスタの2.5mg錠がないのはなぜ?
オメプラゾールとエソメプラゾール
オメプラゾール(オメプラール)→ラセミ体
エソメプラゾール(ネキシウム)→S体
S体はR体に比べて肝初回通過効果を受けにくいとされています。
フルルビプロフェンとエスフルルビプロフェン
フルルビプロフェン(アドフィード、ゼポラス、フルルバン、ヤクバン)→ラセミ体
エスフルルビプロフェン(ロコア)→S体
S体はR体やラセミ体に比べて皮膚透過性がよいそうです。
ホリナートとレボホリナート
ホリナート(ロイコボリン、ユーゼル)→ラセミ体
レボホリナート(アイソボリン)→l体
l体が活性本体のようです。
レボカバスチン
リボスチン→l体
d体よりl体の方が強力で持続性があったため採用されたそうです。
レボチロキシン
チラーヂン→l体?
デキストロチロキシンはコレステロールを下げる薬として研究されていましたが、心毒性があるため開発中止となったそうです。
レボドパ
ドパストン、ドパゾール、各種配合錠→l体
D-DOPAはL-DOPAに比べて大量投与が必要、吸収が遅い、体内での貯留が長い、顆粒球減少が起きるなどの理由で使われないのだそうです。
レボブノロール
→l体
緑内障点眼(β遮断薬)です。l体、ラセミ体、d体の比較でl体が最も薬効、安全性が高かったそうです。
デキストロメトルファン
メジコン→d体?
レボメトルファンは麻薬及び向精神薬取締法によって規制されています。
L-カルボシステイン
ムコダイン→L体?
天然に存在するアミノ酸はほぼすべてL体らしいので、L-システインの誘導体であるL-カルボシステインもL体なのでしょう。
レボカルニチン
エルカルチンFF→L体(R体)
カルニチンはリジンとメチオニンから作られるのでL体固定のようです。FFはFree Form(フリー体)の略です。
エスシタロプラム
レクサプロ→S体
ラセミ体のシタロプラム(商品名CELEXA)は日本では承認されていないようです。
クロルフェニラミン
dl-クロルフェニラミン(アレルギン、クロダミン、各種配合剤)→ラセミ体
d-クロルフェニラミン(ポララミン、各種配合剤)→d体
d体の方が眠気が少ないとされています。
l-メントール
別名(1R, 2S, 5R)-メントール→l体?
l-メントールはハッカ臭がするのに対し、d-メントールはカビ臭いらしいです。
ノルゲストレルとレボノルゲストレル
ノルゲストレル(プラノバールに含まれる)→ラセミ体?
レボノルゲストレル(ノルレボ、各種配合錠)→l体
ノルレボのインタビューフォームには「左旋性(levo体)別名d-ノルゲストレル」と記載されています。dなのかい?lなのかい?どっちなんだいっ!?
ブピバカインとレボブピバカイン
ブピバカイン(マーカイン)→ラセミ体
レボブピバカイン(ポプスカイン)→S(-)
レボブピバカインはデクスブピバカインより活性が高く、心血管系への作用が低いとされています。
セレギリン
エフピー→l体
ラセミ体はデプレニルというそうです。
サリドマイド
サレド→ラセミ体
薬剤師なら誰もが知っているサリドマイドは多発性骨髄腫、らい性結節性紅斑、クロウ・深瀬(POEMS)症候群の治療薬「サレドカプセル」として再承認されています。
R体が催眠作用、S体が催奇形性を持つとされていますが、R体を投与しても体内でラセミ化するそうです。
【おまけ】キニーネとキニジン
キニーネ→l体
キニジン→d体
キニーネは抗マラリア薬、キニジンは抗不整脈薬(クラスIa)です。
キニーネとキニジンはエナンチオマーではなくジアステレオマーの関係でした。
疑似エナンチオマーともいうそうです。
「レボ」が左旋性のlなのか、D/L表記法のLなのか、わからなくなりました。
小文字でイタリックだと旋光性、大文字だと相対立体配置のはずですが、ごっちゃになってしまっているようです。
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調べてほしい、まとめてほしい薬の情報がありましたら教えてください。